超高層ビルに
水を押し上げる。
新構造によって実現した、
ポンプの進化。

PROJECT MEMBER

  • 三井 健斗郎

    三井 健斗郎

    品質保証
    2006年入社

  • 加代 将士

    加代 将士

    マーケティング
    2007年入社

  • 三輪 智志

    三輪 智志

    設計
    2012年入社

超高層ビルに対応したポンプの開発。

超高層ビルに対応した
ポンプの開発。

全国の大都市で今、従来を上回るスケールの超高層ビルの建設が進んでいる。超高層化が進む時代に、ポンプはどこまで進化できるか。最先端のニーズに応える開発プロジェクトをご紹介したい。 川本製作所の製品の中に、高層の建物に対応した「KVS形ステンレス製立形タービンポンプ」というシリーズがある。しかし、従来製品では現場の要求仕様を十分に満たすことができず(一台のポンプで最上階まで揚水できず、途中の階に水槽を設けて中継する必要がある)、より高スペックな製品の開発を求める声が社内で高まっていた。それを受けて市場調査を行い、製作につなげる役割を果たしたのが、マーケティング部の加代将士だ。新製品に求められる能力や適正なコスト、将来的な市場の見通しなどを分析し、技術部門に開発の要望を伝えた。
その要望を受け、技術部で新製品KVS2形ステンレス製立形タービンポンプの設計を担当したのが、三輪智志である。開発に向けてさっそく検討を開始したが、求められるスペックを実現する上で大きな課題があることが分かった。それは、耐震性の問題。ポンプの中にはインペラ(羽根車)と呼ばれる部品があり、それを回転させて水を押し上げる。超高層ビルに揚水するためには高い圧力が必要で、多くの羽根車を積み上げなくてはならないが、羽根車を多段にするとポンプの全高は2メートルを超えてしまう。そのように重心の高い形状では、地震発生時に安全面の問題が生じる。高い圧力を実現しながら同時に地震が多い「日本」だからこそメイド・イン・ジャパンの「発想」や「強み」を活かした「災害に強い製品」をつくるという、困難な開発に取り組むことになった。

シミュレーション技術を活用した性能追求。

シミュレーション技術を
活用した性能追求。

課題解決のために三輪がまず考えたのは、1段ごとの羽根車を大型化することで羽根車の段数を減らし、ポンプの全高を低くすると同時にポンプ本体を太くする方法。太く安定した形状にすれば、自ずと耐震性向上につながる。しかし、このような設計を行う場合、省エネ性能の低下という別の問題が生じることも分かっていた。重心が低く安定した構造を維持しながら、他社製品以上の能力と高い省エネ性能を達成する。その難問を解くために三輪は、これまでの川本製作所にはない手法を思い切って試すことにした。それは、まだ社内で本格的に取り入れられていなかった、3Dモデルを活用した設計である。
「製品コンセプトを実現するために取り入れたのが、3Dモデルを使った設計です。その結果、設計のトライアンドエラーを行う回数が飛躍的に高まり、構造の洗練につなげることができました。シミュレーション上で良い結果が出たものを実際に試作するという方法で、納得できる水準まで改良を行い、独自の構造を考案することができました」
シミュレーション技術を取り入れた設計手法により、省エネ設計と耐震性アップの両立を実現。さらにそれだけではなく、三輪はこの新構造で製品の長寿命化につながる改良をめざした。ポイントとなったのは、水の流れに伴って羽根車にはたらく「スラスト荷重」という力の低減だ。このスラスト荷重が強いほど部品の消耗が早くなり、製品寿命が短くなってしまう。そこで新構造では、スラスト荷重を大幅に低減する設計を実施し、試作品を使った評価では効果を確認することができた。しかし、新構造を取り入れた製品を世に出すためには、まだ大きなハードルがあった。設計・試作後に行われた量産試作で、想定外の弱点が発見されたのだ。

「品質本位」を体現する量産試作。

「品質本位」を体現する
量産試作。

設計の次工程としてKVS2形の量産試作を担当したのが、品質保証部の三井健斗郎だ。三井の役割は、量産に移行するための評価試験や妥当性確認を行い、新製品の品質保証をすること。とりわけ本プロジェクトにおいては、新たに採用した構造や新部品に重点をおいて品質チェックを行った。
「市場クレームを未然に防止し、品質を守ることが、メーカーの品質保証部としての使命です。市場クレームにつながる問題を見つけ、改善することが私たちの仕事になります。今回、新構造を徹底的にチェックしたところ、他の部品との兼ね合いで新たな問題が見つかりました」
三井からの連絡を受けた三輪がすぐ駆けつけると、確かに不具合が認められた。ショックはあったが、すぐ気持ちを切り替えて三井とともに不具合の原因究明と対策に取り組んだ。
「この不具合を見逃がしたまま製品が市場に出ていたら、市場クレームにつながっていたと思います。それを三井さんに発見していただいて弱点を補うことができ、ようやく本来めざしていた製品を実現できました」
と三輪は振り返る。川本製作所の社是には、「品質本位」という言葉が掲げられている。その実現を支えているのが品質保証部で、限られた時間の中で製品の改善に力を注ぐ三井の姿勢が、KVS2形の品質向上に大きな役割を果たした。品質保証という仕事の責任と、それを果たすための自己成長の必要性について、三井はこう語る。
「このプロジェクトを通して感じたのは、『川本製作所の品質を守ることができた』というやりがいです。ポンプという製品は、羽根車やモータ、制御盤などいろいろな部位によって成り立っています。製品全体の品質を保証するためには、それら幅広い技術を理解し、部品や材料、加工に関する知識も持たなくてはいけません。今後も日々勉強を重ね、成長を続けることが必要だと思っています」

アイデアが採用されることの喜び。

アイデアが
採用されることの喜び。

新しいアイデアを製品に取り入れる際に重要になるのが、市場動向や顧客ニーズをふまえた適切な判断だ。アイデアを採用することのメリットとデメリットの両面がある中で、設計担当者の提案を受けてその可否を判断するのが、マーケティング部の役割となる。KVS2形の新構造については加代が市場における優位性を見極め、採用の判断を行った。無事に市場へのリリースが終わった今、加代はどんな手応えを感じているのだろうか。
「今回、地震の多い日本ならではの視点から、耐震性に優れた製品を生み出すことができました。KVS2形は、新たな市場を作っていける製品だと感じています。ただ、マーケティング部の立場で言うと、『まだこれから』という気持ちの方が強いですね。製品をしっかりと市場にPRし、販売していく。そして、販売した先でお客様の声を聞き、製品をさらに良いものにしていく。そこまでが私の仕事です。今後のチャレンジがとても重要だと思います」
本プロジェクトにおいて、今までにない特徴を持った新構造を発案し、新たな市場の開拓につながる開発を行った、設計担当の三輪。現在の達成感をこんな言葉で語る。
「製品を丸ごと設計するのは初めての経験でしたが、何とかやり遂げることができました。良いコンセプトが伴っていれば、いち設計者のアイデアが最終製品に採用される。それは、川本製作所の魅力だと思います。自分のアイデアをどんどん発信でき、それを形にしていける会社だと感じています」
社会の変化に伴い、ポンプをめぐる市場環境も変化を続けている。そうした中で求められるのが、製品を通して新たな付加価値を提供し、世の中の課題解決に貢献するものづくりだ。社員のアイデアと挑戦心によって実現したKVS2形の開発は、その道筋を示す一つの事例と言えるだろう。

KVS2形ステンレス製立形タービンポンプ
KVS2形ステンレス製立形タービンポンプ